バリー・シャープレス教授
カール・バリー・シャープレス(Karl Barry Sharpless,1941年4月28日生)は、ノーベル化学賞を2度受賞したことで広く知られる、アメリカの化学者です。
彼の業績は、「不斉合成」や「クリックケミストリー」など、化学の発展に大きく貢献しました。
1度目のノーベル賞受賞(2001年)
2001年、シャープレスは「キラル触媒を用いた不斉合成の研究」により、ウィリアム・ノールズ、野依良治と共にノーベル化学賞を受賞しました。
この研究は、キラル触媒を用いることで、光学活性な分子を高精度で効率的に合成することを可能とし、医薬品や農薬、機能性分子の製造に革命的な進展をもたらしました。
シャープレス教授が開発した不斉エポキシ化反応
ウィリアム教授(左)と野依教授(右)が開発したキラル触媒
2度目のノーベル賞受賞(2022年)
2022年には、「クリックケミストリーと生体直交化学の開発」により、キャロライン・ベルトッツィ、モーテン・P・メルダルと共に2度目のノーベル化学賞を受賞しています。
クリックケミストリーとは、あたかもシートベルトのバックルがカチッと音(click)を立ててロックされるように、二つの分子の特定官能基が簡便な手法によって、確実に新たな結合を形成する反応を称したものです。
なかでも、水系の穏やかな条件下で反応が進む化学反応で、「アジドとアルキンの[3+2]環化反応」による 1,2,3ートリアゾールの合成に代表されます。
代表的なクリックケミストリーのヒュスゲン[3+2]環化付加
このクリックケミストリーを「ケミカルバイオロジー」「ケミカルゲノミク」の領域と融合し、新しい概念となる「生体直交化学」を構築したのが、キャロライン・ベルトッツィの業績です。
クリックケミストリーに係る研究成果は、化学や医薬、材料科学に留まらず、生命現象解明などさまざまな分野で応用が進んでいます。
これまでノーベル賞を2回受賞した化学者は5人で、シャープレスは、マリー・キュリーやライナス・ポーリングと並ぶ偉大な業績を残した一人です。
また、同じ分野で2回受賞したのは、シャープレスが3人目となります。
研究キャリア
シャープレスは、マサチューセッツ工科大学(MIT)やスタンフォード大学で教授を務めました。
スタンフォード大学では、蛾の性フェロモンの合成などに用いられている「シャープレス酸化」と名付けられた、遷移金属触媒を用いた「オレフィンのエポキシ化反応」を開発し、化学の発展に貢献しました。
現在、シャープレスはマサチューセッツ工科大学とスタンフォード大学の教授を務める傍ら、スクリプス研究所でW.M.ケック財団の化学系教授としても活動しています。
また、2010年には九州大学から栄誉教授の称号を授与されています。
自分との比較
私も有機化学を学び、かつては企業研究者としてバリー・シャープレスのような偉大な業績を残したい夢を持っていました。
しかし、気づけばその軌道から大きく外れてしまった自分がいます。
シャープレスのように、世界を変える夢を成し遂げられなかった理由は一体何なのでしょうか。
才能が足りなかったのか、運がなかったのか、あるいは情熱が足りなかったのか。
そもそもアカデミアではなく、企業に就職したことが問題だったのか。
大方はその能力がなかったが正解でしょう。
ただ、能力に限らず、他にも何か要因があるように思います。
改めて振り返ると、結果がどうであれ、夢を目指した過程の中で得た学びや感動、それらは無駄にはならなかったと言えます。
それは、次のステージに活かされていたと思えるからです。
研究を離れて久しいですが、今からできる新たな挑戦はあります。
いくつになっても新たな挑戦に踏み切り、自分のペースで、目の前の小さな成功を掴み取ることこそが、人生の本当の豊かさつながると思うようになってきました。
それがどんなに小さなことであっても、心が満たされる瞬間は必ずあるでしょう。
自分を偉人たちと比べるべきではありません。
過去の実績や他者の評価にとらわれず、自分が信じる「今」を大切に生きる。
後悔せずに生きるためには、過去を悔やんで立ち止まることなく、今この瞬間を大切にすることが必要でしょう。
家族や友人など大切な人との時間を持つことに努め、趣味や社会貢献など仕事以外に没頭すること、そして自分自身を大切にすること。
そういった日々の積み重ねが、後悔のない人生を築いていく方法だと思うのです。